デジタル領域で企業、個人が理解しておきたい「契約」のポイント

こんにちは、猫をやたらとたくさん飼いたいじょーじです。

今回は「契約」に関する内容です。

日々プロジェクトを進める中で、こんな経験はありませんか?

  • 関係値が構築できているクライアントだから契約書なくても大丈夫
  • 約束したプロジェクトの進捗がだいぶよくないけど、まあ平気でしょ
  • ふんわり案件とってきたけど丸投げすればなんとかなるだろう
  • とりあえず下請けに出しとけばいいや
  • グループ会社の別案件追加でもらったけど契約書なしにとりあえず進めよう

私自身耳が痛い言葉が並びますが、これはちょっと危険かもしれません。

日常的に法務部門とビジネスサイドがしっかりと連携して各契約を考えることができればいいのですが、実際問題としてなかなか難しいですよね…

ですが今まで大丈夫だったからといって油断していると、契約書で定めていないことが発生してしまったり、知らずに下請け法に引っかかって指摘されてしまったりする恐れもあります。

そこで今回は自社もクライアントも従業員も関係会社も含めてしっかり守るための、契約関係の基礎知識をお届けしていきます。

特にデジタル領域で大切なポイントを記載していきますね。

CONTENTS

1 開発、制作などのデジタル領域の案件などでも結ばれる主な契約形態

デジタル業界に限らず「業務委託契約」という契約形態を耳にします。この業務委託契約、厳密にいうと法律上は存在しない契約です。

「業務委託契約」と呼ばれている契約の内容は主に「請負契約」「準委任契約」として扱われる事が多いでしょう。

まずはそんな代表的な「請負契約」「準委任契約」から見ていきましょう。

この両者の最も大きな違いは仕事を完成させる義務があるかないかと言えるでしょう。

1-1 請負契約

請負契約は「請負った人がその仕事を完成させる約束をし、依頼主は仕事の完成に対して報酬を支払うことを約束する」契約形態のこと。

そのため成果物として納品する義務が発生します。もし完成しなかったとしたら、場合によっては発注者は契約を解除し、損害賠償請求を行うことも可能です。

この契約は瑕疵担保責任が発生する契約形態でもあります。成果物を引き渡した際、不備や欠陥があったとしたら受注者は損害賠償や修補の義務を負う事になります。

ここで大切なのは受注者の義務は原則「完成させる事」だということ。そのため契約書で定められていない場合は実は随時の報告義務は発生しません。

受注者側の主なメリット

  • 高品質な成果物の開発コストをおさえることができれば大きな利益を創出できる

受注者側の主なデメリット

  • 完成するまでは報酬を得ることができない
  • 契約不適合責任を負う可能性あり
  • 予算内で成果物を完成させることができなかった場合、赤字の可能性もあり

発注者側の主なメリット

  • 品質と成果物の納品が保証されている
  • 原則、完成するまで支払いの義務がない
  • 原則、報酬が決まっているので、追加作業などによる費用負担の可能性がない

発注者側の主なデメリット

  • 見積もりの段階で仕様や要件が確定している必要がある
  • 開発途中での仕様や要件の変更に対応することが難しい
  • 損失発生リスクを回避するため、見積もりが高額になる可能性がある

1-2 準委任契約

準委任契約は「仕事の完成ではなく、仕事の一部の作業を委託する」契約形態のこと。

一定の水準で委託された業務を行い、求められた際には報告を行うなどして業務遂行の義務は負うものの、仕事を完成させる義務そのものがありません。請負契約と異なる点はこの「仕事を完成させる義務」の部分です。

したがって仕事が完成しない事に対して契約の解除を行うことは原則としてできません。

原則として瑕疵担保責任がないため、システムにエラーが発生したとしても準委任契約であれば法的な修正義務は発生しません。

明確な目標が存在しないという性質から「1か月働いたら〇〇円貰える」というような形式も準委任契約に該当する場合も。

何かを完成させる義務が生じない代わりに、民法第644条に定められる「善管注意義務(善良な管理者の注意の義務)」という義務が発生します。

その義務を満たさない場合は、損害賠償請求や契約解除などが可能となるので注意が必要です。

受注者側の主なメリット

  • 全体の仕事が完了していなくても委任された仕事を行えば報酬が発生する
  • 想定外の工数が発生した場合であっても、追加分の請求が可能なケースも
  • 基本的に契約不適合責任が無い

受注者側の主なデメリット

  • 責任範囲が狭いため利益が少ない可能性あり
  • 長期よりも短期の傾向が強いため、新規案件を探す手間が多い

発注者側の主なメリット

  • 基本的に細かい見積もりになるため費用の妥当性が明確
  • 請負契約よりも低額な見積もりになる可能性が高い
  • 開発途中の仕様変更にも柔軟に対応することが可能

発注者側の主なデメリット

  • 原則、完成まで受注者に責任を負わせることができない
  • プロジェクトの遅延、遅滞、人員不足などで想定外の費用が発生する可能性がある

1-3 どちらの契約形態を選択するべきか

どちらの契約にもメリット、デメリットが存在します。

とにかく完成だけを求めるのであれば請負契約を、細かく作業を区切って変化に柔軟に対応したいのであれば準委任契約を検討するなど、仕事の内容によって適切な契約方法は変化してきます。

そのため案件ごとに、誰に対してはどの契約が適切なのかを考える必要があります。

請負契約、準委任契約を理解した上で契約を進めない場合、予期せぬデメリットに対応できなくなってしまうかもしれません。

プロジェクトの難易度、内容、要件、予算、関係者の希望や力関係なども加味し、そもそも完成象や業務フローを契約書に記載できるのかどうかも考える必要があります。

経営的側面、法的側面から個別事情により判断し、都度交渉して進めることが最も大切な姿勢と言えるでしょう。

ちなみに完成責任のある「請負契約」に該当する場合は「2号文書」を作成するため契約書に印紙が必要。完成責任のない「準委任契約」に該当する場合は「2号文書」を作成する必要もないため、契約書に印紙は不要になります。

2 契約書が無い場合の契約は有効か、無効か

デジタル領域のプロジェクトでは契約書が無い段階で作業が進んでしまうことも決して少なくないでしょう。

このような場合に気をつけておきたい点を記載していきます。

2-1 原則、契約成立に必要なのは「当事者の合意」のみ

原則として契約成立に必要な法律上の要件としては「当事者の合意」のみです。

そのため契約書という形で書面が取り交わされていない場合であっても契約として認められることも。

しかし、契約書を書面化し、取り交わす前にプロジェクトがスタートし、作業者が業務を進めるという状態は非常に危険です。

もう一度言います。

契約書を書面化し、取り交わす前にプロジェクトがスタートし、作業者が業務を進めるという状態は非常に危険です。

プロジェクトの中止や他社への変更、作業者との連携不備などがあった場合、契約書という証拠が無いことを理由に適正な報酬を受けることができなくなる可能性があります。

もしそうなった場合、その時間に費やしたリソース分がシンプルにマイナスになるため、経営的側面から鑑みても歓迎されることではありません。

2-2 法的には「契約の要素」に合意してからが契約開始

「契約」によって当事者は契約に拘束されます。契約は原則として、申し込みの意思表示と、承諾の意思表示の合致によって成立するものです。

一方が契約内容を遵守しない場合、話し合いや裁判によって履行を強制したり、不履行に対して損害賠償を請求することも可能。

契約の成立に関しては民法第五二二条では次のように規定されています。

(契約の成立と方式)

第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

出典:e-Govポータル 民法(明治二十九年法律第八十九号)

法的には契約書を取り交わしたタイミングではなく、「申し込みの意思表示と、承諾の意思表示の合致」によって契約が成立するということです。

この文章のまま考えるなら、単なる口約束であっても仕事や業務の内容、納期、報酬などについて双方の意思が合致していれば契約が成立するため、契約書は必要ないということですね。

2-3 口約束で契約になるとしても書面化しておくことが大事

前述のように契約書がなくても理論上は契約が成立する場合もあります。

しかし単なる口約束だけでは契約の成立が認められない場合があることもまた事実。

口頭やメールだけでは実際誰の判断で契約の意思を示したのかが明確ではなく、契約条項の内容も非常に不透明です。

契約の証拠が残っていなければ当然ながら契約したことを証明できません。そのため「契約したなんて証拠ないんだから支払わなくてもいいでしょ」と、報酬の支払いを受けることができなくなってしまうかもしれません。

決裁者同士の会食で合意をしたものの書面としての証拠が無いため契約が成立していないと判断されるケースや、最初は契約書を締結したものの、その後は契約書を締結しなかったため契約の成立が認められなかったケースなども存在します。

何度も特定の取引先と取引を行っていたとしても契約書の作成を怠ったり、契約書締結の前に業務に取り掛かってしまうことは可能な限り避けるべきでしょう。

3 デジタル領域では多段階契約も検討する

多段階契約とはフェーズや業務内容によって契約書を逐一締結し直すという契約手法。

デジタル領域のプロジェクトは実に様々な工程を経てゴールに向かいます。そのような業務の性質を考えると、契約も複数に分けるのが適切な場面が多く登場します。

経済産業省が提唱するモデル契約もこの多段階契約の考え方が取り入れられています。

3-1 準委任契約と請負契約をフェーズごとに使い分ける

プロジェクトのフェーズによって契約形態を使い分ける多段階契約の例としては、

  • 企画や要件定義などは「準委任」
  • 設計は「請負」と「準委任」
  • 実装、テストは「請負」
  • 運用、保守は「請負」と「準委任」

などが挙げられます。

プロジェクト開始の前段階の企画や要件定義などは「仕事の完成」を明確化するのが難しいため準委任契約で進めることが多いでしょう。

その後の工程は発注者の協力度合いによって契約形態が変化するため、関係値などを考えながら都度判断する必要があります。

もちろん小規模案件であれば多段階契約を行う必要がないケースもあるため、案件規模なども考えて契約を進めましょう。

この多段階契約は流動性、変化に対応しやすく、見積もりの妥当性も判断しやすいメリットがあります。その反面、このフローをコントロールできるリソースと、案件規模が必要になってきます。

3-2 基本契約と個別契約

多段階契約では前述したこの2つの契約をフェーズによって使い分け、進捗させるのが望ましいと考えられています。

まずは一般的な内容や大きな座組みは「基本契約」として記載、締結します。基本契約書には主にこのような内容が記載されています。

  • 秘密保持に関して
  • 契約書の有効期限
  • 成果物の納入方法、検収方法
  • 仕様変更発生の際に関して
  • 個別契約を締結する際の方法
  • 頻繁に使用される用語の定義

「お互いが仕事をしていく中での基本的な約束」を基本契約書で取り決めた後は、発生する業務ごとに「個別契約」を締結します。

「フェーズ1は請負で、フェーズ2は準委任でお願いされた」という場合はもちろん、それ以外としては、

  • WEBサイト制作の契約だったが、広告運用もお願いされた(もしくはお願いしたい)
  • システム開発案件の契約だったが、SNS運用もお願いされた(もしくはお願いしたい)
  • 特定サイトのSEO案件の契約だったが、グループ内の他のサイトもお願いされた(もしくはお願いしたい)

このようなケースも考えられます。この場合も基本契約に加えて個別契約を締結するのがおすすめです。

4 受注者が負うプロジェクトマネジメント義務

プロジェクトマネジメント義務はその名の通り、プロジェクトをマネジメントする義務のこと。

その名の通りすぎますね。

実はこれに反すると債務不履行責任を問われてしまう可能性も。

そして「プロジェクトマネジメント義務とはこのようなもの」という定義はありません。

プロジェクトマネジメントは進捗管理、スケジュール調整、リソース管理、リスクの管理と回避、発注者に協力を仰ぐコミュニケーション努力など、様々な要素で構成されています。

4-1 プロジェクトマネジメント義務に反するとどうなるのか

この義務に反すると債務不履行責任を問われる可能性も考えられます。

債務不履行責任とは「契約に基づく義務を前提として、これが適切に履行されていないと判断された場合に負う責任」のこと。

種類としては、履行が期日に間に合わなかった「履行遅滞」、意図に沿った履行ができていない「不完全履行」、履行そのものが不可能になる「履行不能」などが挙げられます。

4-2 債務不履行になった場合は損害賠償の可能性も

プロジェクトマネジメント義務を果たさず債務不履行となってしまった場合、これによって生じた損害に対する損害賠償請求をされてしまう可能性があります。

また、発注者に契約を解除する権利が発生することも覚えておきましょう。

4-3 プロジェクトマネジメント義務は契約締結前にも発生する

契約締結前に提案書を提出したり、企画を立案したり、スコープを設定したり、リサーチを行うことは珍しいことではありません。

契約書締結以前においてはプロジェクトの進め方、実現方法、リスクなどを発注者に説明する義務があるとされています。

締結する前であっても双方安全にプロジェクトを進めるため、しっかりと情報や状況を説明しましょう。

プロジェクト自体を遂行するためには発注者任せではなく、受注者がプロジェクトを牽引することが不可欠と言えるでしょう。

5 元請けと下請けの違い

「元請け」は受託者が委託者から直接仕事を請け負うこと。元請業者や元請負人などとも呼ばれます。

一方の「下請け」は受託者が元請業者から仕事を請け負うことを言います。

元請の主なメリット

  • 委託者と契約を直接締結できる
  • コストと利益のバランスを考えて契約することができる
  • 受注できる仕事の幅が広い

元請の主なデメリット

  • 下請け業者の仕事に対しても責任を負うため、責任範囲が広い
  • 営業活動をしても案件獲得できず「ただ働き」となる場合がある
  • 要件定義やリサーチ、企画などに大きなリソースが発生する

下請けの主なメリット

  • 元請との関係値次第では継続的な受注が期待でき、そうなれば営業工数を減らすことができる
  • 要件定義などの業務が発生しにくい

下請けの主なデメリット

  • 元請が提示される金額が少ない可能性がある
  • コストと利益のバランスを調整しにくい

双方良し悪しはありますが、簡単に記載するとこのようなメリット、デメリットが考えられます。

5-1 準委任契約の仕事を下請けすることが認められない場合も

そもそもで仕事の内容次第では下請けが法的に認められない可能性があります。

請負契約によって業務を引き受けた場合、原則としては下請け、すなわち再委託の利用は可能。

理由としては請負契約は「仕事の完成」のための契約なため。仕事が完成し、契約が履行されていれば「誰がそれを行ったか」は特段問題として挙げられることは無い契約類型なため下請けの利用が可能なんです。

しかし準委任契約の場合、下請けの活用は原則として認められません。「委任」というものの性質は双方の信頼関係を基礎にして成り立つためです。勝手に下請けに委任してしまうと信頼を裏切ることになりかねません。委任を受けた本人が遂行しなくてはなりません。

勝手な下請け業者の活用そのものが債務不履行問題となってしまう可能性もあります。

5-2 双方合意のもとで契約書に規定しておけば認められる可能性も

請負契約であった場合でも双方の合意があれば「下請けを用いることを禁じる」旨を特則として契約書に記載することが可能です。

同時に準委任契約の場合も発注者側の合意さえあれば下請け業者への発注が認められるということも考えられます。

準委任契約で下請け業者の使用を認めて欲しい場合は特約として業務委託契約書に規定しておきましょう。

特則を破ってしまった場合には当然ながら契約違反となり、解除や損害賠償に発展する可能性があります。

5-3 下請け法を確認しておく

「下請代金支払遅延等防止法」、すなわち下請け法をしっかりと確認しておきましょう。

これは元請の下請に対する支払いの遅延や不当な値引きを禁じることで取引の公正化をはかり、下請けの利益を確保するためのもの。

下請け法では「義務」「禁止事項」を課しており、それに違反すると罰金や勧告措置などに発展する可能性があります。

下請法の対象となる取引としては、

  • 製造委託
  • 修理委託
  • 情報成果物作成委託
  • 役務提供委託

が挙げられ、デジタル領域は「情報成果物作成委託」がメインになるでしょう。

親事業者と下請事業者は、

  • 親事業者…資本の額や出資総額が一千万円を上回る法人や事業者で、資本額や出資総額が一千万円以下の法人や事業者に対し製造や修理などを委託することを意味する
  • 下請事業者…資本額や出資総額が一千万円を下回る事業者で、親事業者から製造や修理委託を受けるもの

このように考えられます。

親事業者は

  • 書面の交付
  • 書類の作成・保存
  • 下請代金の支払期日を定めること
  • 遅延利息の支払義務

の義務があります。

さらに親事業者に以下の禁止事項が課せられています。

  • 受領拒否
  • 下請代金の支払遅延
  • 下請代金の減額
  • 返品
  • 買いたたき
  • 購入・利用の強制
  • 報復措置
  • 有償支給原材料等の対価の早期決済
  • 割引困難な手形の交付
  • 不当な経済上の利益の提供要請
  • 不当な給付内容の変更およびやり直し

もし下請事業者の了解を得られていたとしても、親事業者が違法性に気づかなかったりした場合であっても、規定に触れる際は違反に当たってしまうので注意が必要です。

最後に:「信義則」を大切にするためには、納得のいく契約内容を話し合い、双方の意図を契約書で明確に文書化しておくことが大切

これまで記載してきた内容はデジタル領域に限ったことではありません。

民法第一条に重要な考え方が規定されています。

権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

出典:e-Govポータル 民法(明治二十九年法律第八十九号)

このように法律上「相手の信頼を裏切ることがないように行動しなければならない義務」があります。これを「信義則」と呼びます。

締結の前段階であっても誠実に向き合うこと、関係者を不幸にしないようしっかりと契約書を締結すること、双方のメリットのためにプロジェクトを進めることが大切です。

今までなんとなくで進めてきてしまっていた場合、再度契約のあり方やフローを見直してみてくださいね。きっと今後発生しうるリスクを防ぐことができるはずです。

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